道具のゆくえ
【 登攀具 】


@ ザイル

ザイルは個人装備でした。会のものも有りましたが共同装備にすると扱いが悪くなり、最悪事故につながるという事からこうなっていました。同じ事が職場でも言え(人命に関る事はありませんが)山の道具の管理法がけっこう役に立っています。
私が持っていたのは9mmφの40m。エーデルリットのエバードライ(素材はペルロン?)
人工は、9mmφをダブル(2本)、フリーは11mmφをシングルでと、当時は言われていましたが、フリーでも9mmφ一本で登っていました。 今のインドアクライミングでは8mmφを使っているようです。 素材が丈夫になってきているのかも知れません。
このザイル、いつも私と一緒に行動していたのですが、あの時以来姿を見ていません。

かみさんと一緒になった年、初めてどこへも出かけない正月を向かえようとしていました。既にかみさんがハラボテになっていたのです。正月の為の買い物や大掃除を済ませた所へ1本の電話。
「××が落ちた。」 外傷は骨折程度だが血尿が出ている。天候が悪くヘリが飛べない。自力下山は無理との事。
もう使う事は無いと思っていた道具を大急ぎでかき集め、集会場へ。
その夜の内に入山口に移動。翌朝出発。
幸い途中で天候が回復し、地上部隊が着く前にヘリで収容。 これにて一件落着。
入山口に戻り、さて帰ろうとしていると今度はまた別の会で遭難との連絡。
一部はそちらに行くことに。 ザイルが足りないとの事なので供出。 その後行方不明に。
保険で帰ってくるとは聞いていたが、もう使う事はないと思い、「会で使って!」
結局それで正解だったと思う。もし今手元にあったら、尻の軽いこの私、年も考えず藤内へ足を踏み入れる事があるかも知れない。

別にかみさんと約束した訳ではありませんが、ひとつの歯止めとして【藤内には入らない】と決めています。 もし一歩でも踏込めば、××くらいは、△△くらいは、と安易にエスカレートするかも知れません。
御在所以外はあまり行った事が無く、どうしても御在所近辺に足が向いてしまうのですが、そのど真ん中を占める藤内周辺に入れないのはコースどりが制約され、ついマンネリ化してしまいます。 かといって他の山域にあまり魅力を感じないのは、過去の思い出に縛られているせいでしょうか。


岩登りは別に危険じゃないと言う人もいます。うちの会の親分もそのひとりでした。
しかしそれには【細心の注意を払っていれば】という条件が付きます。 一般道を歩いているより当然リスクは大きくなります。 まして年と共に注意散漫になっている私など上から人が降ってきても気付かないでしょう。
人が降ってくる。という事で思い出した事があります。
順番待ちをしている時、かみさんが岩に寄りかかって仲間とダベリング。 そこへ上からアイゼンを着けたまま人が降ってきた。 幸い背中から落ちてきたので、かみさんに怪我は有りませんでした。
「こんな所で落ちてくるな!」と怒鳴りつけましたが、そんな所にいる事を注意しなかったのは、私の責任。 あの時は凄く反省しました。 おかげでかみさんがクッションになり落ちたほうも何事もなかったようです。

@-1 ヒモの結び方  ('04.08/01 追加)

ヒモの結び方ってあまり知りません。ブーリン、エバンス、とっくり結び(もやい結び?)、8の字くらいです。これ以外に使う物って殆ど無いように思います。
頭では何も覚えていないのですが、不思議なもので身体が覚えています。
特にブーリンなんていつもゼルバンを着けていたので殆どしてないのですが、緊急時に暗闇の中でも身体に着けられるようにと覚えたものが今でも忘れていません。(目をつぶっていないと出来ませんが。)
でもこの方法は自分の身体に着ける事しかできず、別の物に結びつけようとしても全く出来ません。一度自分の身体に着けたものを目で見てそれを真似ないと結べません。
エバンスには苦い思い出があります。
通常は対象物に巻きつけておいてから結び目を巻いて行くのですが、【山渓】に乗っていた簡易な方法を試していたら、「何処でそんな結び方を覚えてきたんだ!」と凄い剣幕で親分に叱られたことがあります。
「引張ってみろ!」と言われ引張るとスポッと抜けてしまったではありませんか! この方法、末端側を手元に持ってやらないと駄目なんです。そこを間違えずにやるなら便利なんですが、ウッカリで命と引替えにはできません。
いつも柔和で怒った顔など滅多に見ることが無かっただけに、あの時の事はよく覚えています。
親分の話では実際にこの方法で事故も起こっているとの事。今なら大問題になるところでしょうが、当時は岩登り人口も少なく新人教育は各山岳会が担っており、おかげで【山渓】さんも賠償請求訴訟にまでは到らなかったようです。
今のように中高年初心者だけで入山する時代ではどうなっていたことやら。中高年の方々は社会的地位の高い人も多く、命のお値段もお高いですから。

ビレイの方法も昔はカラビナを使ったグリップビレイか、肩がらみ。今はビレイ専用の道具もあるようですが詳しくは知りません。
ビレイの方法がプアだった分セルフビレイの重要性も高かったと思います。とっくり結び、8の字結び等は主にセルフビレイで使われました。
道具は色々と進化して便利になっているのでしょうが、大事な事は今も昔も変わらず相手との意志疎通。相手の技量がわかっていれば注意しなければいけないポイントもわかります。セカンドで登っている時に「いやにテンションがかかっているな。」と思ったら厭らしい所だったという事がよくあります。こんな時、相棒と気持ちが通じ合っている事を実感します。
逆にこんな話もよく耳にします。2ndで登り終えたらビレイしている筈の相手がザイルを手離したままよそ見して世間話をしていた、なんてね。
集団トレーニングでよく聞く事ですが、こんな相手とは二度と行かなくなるでしょう。
お互いが運命を伴にするのですから相手を選ぶ権利もあるべきだと思います。

@-2 ヒモの結び方 追加  ('04.11/04)

なにげなくYAHOOの掲示板を見ていたら、外岩(インドアクライミングから始めた人達はこう呼ぶらしい)で、ひとりで練習する方法として、ザイルを垂らしておきユマールで確保しながら…との書込みがあった。
ユマールなんて今でもあるのか?と思いながらもプルージックを思い出した。
ユマールなんてとても高価だったし、ザイルも傷むので普通はそんなもの使う者はいなかった。
せいぜい金にいとめをつけない海外遠征でフィックスロープに使うくらいだろう。
代わりによく使ったのがプルージックか巻き結び。これならシュリンゲ一本で済む。
うんうん。ブーリン、エバンス、もやい、八の字、の他に二つも知っていた。おりこうさん!
プルージックは上下両方向のテンションに効くが、巻き結びは片方向にしか効かない。しかし効かない向きへは軽く結び目をずらす事ができ便利です。
我々のように貧乏な昔の人間はお金を使わず工夫する事で対応しようとします。
今の人達は金にものを言わせて直ぐ道具に頼ろうとします。その道具も使い方をしっかり理解して使っているのなら良いのですが、掲示板をROMしている限りとてもそうは思えません。
クライミングもファッションとでも思っているかのようです。リスクの無い屋根の下でやってる限りいくら技術を身に付けても山の中では全く役に立ちません。
雨で濡れてるから登れない。風が吹いているから登れない。寒くて凍えるから登れない。
こんな言葉が出ないようどんどんOut Doorでいろんなシチュエーションを体験し、状況判断力や適応力を身につけて貰いたいものです。屋根の下でチマチマやっているだけでなく外の楽しさを味わってもらいたいと思います。


A トンカチ

カシンのトンカチ。 ハンドルはウッド、ヘッドは <コ こんな形をしていて尖った方は、足掛りが無い所では岩を削ってスタンスを作る事ができた。
登攀具を入れた袋にしまってあった筈なのに、庭仕事の道具置場に置いてある。 いつの間にか爺さん(かみさんの父親)の私物になってしまったようで、添え木や杭打ち専用になってしまったようだ。
まっ、いいか。


B ジャンピングセット

末娘のポリーの為に駐車場にランニングチェーン(ワイヤを張り犬の鎖をそのワイヤに通したもの。ワイヤの長さ分動ける範囲が広くなる。)を付けるために使ったのが最後。
ワイヤを固定するボルトの穴あけに使ったが、円筒形の穴にならずボルトは打てなかった。
ホームセンターで代用になるものを見繕って固定しました。
その後駐車場に置きっぱなしにしていたら何時の間にか無くなっていました。 「ああ、片付けてくれたんだな。」と思っていたら、不燃ゴミの袋の中に放り込んであるのを発見。
まっ、いいか。


C カラビナ

殆どがボナッティでした。緑色の粉体塗装が施してあるやつです。塗装のおかげで冬場の貼り付きが緩和されていました。
前出のランニングチェインの固定用に使いました。チェインの端には下降リングを付け、そこにワイヤを通しました。 散歩用の紐にも取っ手にカラビナを一枚付けておき休憩中の固定用としました。
何やかやと重宝しました。山の道具って結構いろんな所に流用できるんですね。


D アブミ

私の相棒は子供が小さい時 鴨居に吊るしブランコにしたそうです。
私もそうしようと思っていましたが、気がついたらそんな事で喜ぶ年でなくなっていました。
孫が出来たら庭の木に吊るしてやろうと思っています。


E シュリンゲ

3mmφ〜5mmφ、長さも色々。キャンプで重宝しました。今は殆ど残っていません。


F ゼルプストバンド

正式名はこれでよかったのかな? ゼルバン と略して呼んでいた。 
最近また山渓を読むことがあるが、「ゼルバンという言葉を使うのは年寄りである云々」といった記事が出ていた。「ギクッ。」とした。最近はハーネスと呼んでいるらしい。
私のは全身に纏うタイプだが、かみさんのはテープで作ったパンツみたいなのをはくだけ。前から、逆さに落ちたらすっぽ抜けないか気になっていた。
でも最近のは皆このタイプ。かみさんも「ハーネス」と呼んでいたから腰掛タイプがハーネスで全身タイプはゼルバン? そんなこと無いか。
どちらも倉庫の中で腐りかけています。


G ヘルメット

最近 東海地震の話題がよくメディアを賑しています。
西暦2000年の正月なぞ、テロやインフラの支障が発生してパニックになる・・・なんて事も言われました。
その頃からかみさんは防災セットを用意し、そこにメットも加えてあります。私とかみさんのは山用、子供達は自転車用。(小学校で買わされた。)
転ばぬ先の杖ってやつかな。 備えあれば憂いなし。


H その他

ファモウ
下降器の一種です。アルミ製ですが図体がでかいくせに下降にしか使えないので実用的ではありません。専らカラビナの組合せか、下降リングとカラビナで済ませていました。
買ってすぐ箪笥の肥やしになりました。

3本指ミトン
手袋の便利さとミトンの暖かさを兼ね備えた一品です。人さし指が使えるのではめたままカラビナが扱えます。
冷たい時は人差し指を他の3本と一緒にしておくとミトンのように暖かいです。
お気に入りの品なので勿体なくて使わずにいましたが何時の間にか紛失。
誰かが自分の名前を書いて使っていたのかも知れない。

ハンガロテックス
山用手袋の代名詞。昔は誰もがこれを使っていました。
赤と黒(赤とグレイの混編み/黒とグレイの混編み)の2種類あり、当然男は黒を女子は赤を使っていました。
指先に穴が開き易いので繕って使います。 ハイキング再開時、さすがに使い物にならなかったので、「かみさんのが使えるかな?」と思い(下に薄手の手袋をする事が多いので普通大きめを選びます)かみさんの道具を探していると、黒いハンガロを発見。
「これ誰の?」と聞くと、「ああ Oさんの。 使って良いんじゃない? もう時効だよ。」
かみさんもやはり他の連中と同じ感覚。自分の物は自分の物、他人の物も自分の物。(O君もし見てたらごめん。)
このO君のハンガロもいつしか寿命が尽き、今は洋品店で通勤用として売られている \300くらいの安物を使っています。シンサレート使用で濡れても暖かく、値段の割りに凄くお得です。


I ヒモの結び方教室   2007.03.25 追加

昨日、御在所でよくご一緒する方々相手に【ヒモの結び方教室】を開いた。
ヒモの使い方に興味を持たれていても、なかなか覚える機会がない方もいらっしゃるかもしれません。
そんな方々を対象に極々初級の結び方を写真で掲載してみました。
ヒモを使う事が無いと思われている方々も、いざって時の為に覚えておいて損はありません。授業料はNetの接続代しかかかりませんので、お金は無くても暇のある方はちょっと寄ってみて下さい。

I-1 インクノット
【トックリ結び】とか【巻き結び】とも呼ばれ、最も頻繁に使うものです。
この方法でザイルを結んだカラビナを支点に取りつけます。どちら側に引っ張ってもしっかり止まっているので、主にジッヘル時(相手を確保している時)のセルフビレイを取る時に使います。
3 がミソです。右側ループ(左側ループより手前になっている)を左側ループの向こう側へずらします。


I-2 エバンスノット
首吊り用の結び方です。メイン側を引っ張るとどんどんループが締まってゆきます。
ゼルバン(今はハーネスと呼ぶ)の安全環付カラビナにザイルを結ぶ時に使います。
実際は末端をカラビナに通し、遠い方から手で巻いて行きその中に末端を通し、その後末端処理。とやるのですが、簡単な方法ととして写真を掲載しました。
この方法では、1のように必ず末端を手に持ち、そこにループを巻きつけて下さい。決して反対はやらないで下さい。反対に結ぶと引っ張った時末端がすっぽ抜けてしまいます。命に係わる事ですから写真のような方法は採らず、前述の方法で手で巻きながら結んで下さい。
そして、6,7の末端処理も必ず行ってください。


I-3 エイトノット
【8の字結び】と呼ぶ通り結び目が8の字に似ています。
普通の駒結びでは固く締まってしまい解き難くなります。【8の字結び】は解き易さが要求される時に使います。通常岩角に支点を求める時や、アプザイレンの時にザイル末端を結ぶ為に使います。ダブルで結ぶ事が多いので写真もダブルにしました。


I-4 ブーリンノット
作ったループが広がりも締まりもしない結び方です。ザイルを直接身体に巻く時に使います。いくら締まらないからって落ちたら生身の身体、細いザイルが腹に食い込み内臓破裂は免れません。普通はハーネスを纏いそれにザイルを結びます。
絶対に落ちない自身があるか、落ちても大事に至らない所で、伊達でやるくらいでしょう。
昔ガストン・レビュファが映画【星と嵐】【天に伸ばされたザイル】などでゼルバン無しで登っていました。無茶苦茶カッコ良かった。レビュファのような伊達男以外は必ずハーネスを使用してください。
写真では結び目が二重になっています。通常は一重ですが、この写真は自分の腰に巻いている時のものです。こうやって直接腰に巻く時は二重にするのが一般的です。
真っ暗な中撤退を余儀無くされた時など、手探りで身体に巻けるようにと、目を瞑りながら練習したものです。
この時も末端処理はお忘れなく。


ヒモの結び方とは関係ありませんが、懸垂下降(アプザイレン)も必要になる場合があります。
道具が無ければ肩絡みも出来ますが慣れが必要です。
カラビナの組み合わせで制動も出来ますが、最近のカラビナの形状を見るとなんとなく不安です。
エイト環や専用のデッセンダーをお勧めします。
倉庫で細引きを探していたらファモウを見つけました。これはデッセンダー専用の道具です。用途が限定されている割にでかくて嵩張り、いくらアルミ製でもこれだけでかいとそこそこの重量です。それで殆ど使っていません。専らカラビナの組み合せかデッセンダーリングを使用していました。使用方法、でかさなどは以下の写真を参照ください。
(6mmΦのシュリンゲを使い撮影しています。実際は9mmΦや11mmΦのザイルを使います。ヒモの結び方の写真も4mmΦで撮影しています。)


全然関係ありませんが倉庫でシールも見つけました。あちこち補修の跡があります。昔懐かしい金具とヒモで装着するタイプです。今のように貼り付けるタイプじゃないので板とシールの間に雪がはいり込み厄介な代物でした。材質?勿論ナイロンです。アザラシなんてあの頃でも既に超高級品になっていました。


Top Page