今年も桜の季節がやってきた。
薄水色に霞む空を背景に枝いっぱいに咲いた淡いピンクの花。
冬の寒さを忘れてしまう季節。
我が家にFriendeeがやって来たのは8年前のこの頃だった。
若い時は3年足らずで乗換えていた車も、いつしか思い入れがなくなりただの道具となり永く乗り続けるようになった。
まる8年。ディーゼル規制で乗れなくなるまで後3年間乗り続けるつもりだった。
「おとう! あんな車買うんなら早くしないと。すぐ子供達が一緒に遊んでくれなくなっちゃうよ。」
もう少し先に買換えようと思っていたがその一言で買う気になった。
納車はもっと先と思っていたらデーラーの都合で3月中に納車。その夜から滑り納めに栂池に出かけたのだった。
夜の愛岐道路。ヘッドライトにぼんやりと浮かび上がる早咲きの桜。あの頃は寝不足もあまり気にならず、明け方に現地に着けば良い。とばかりいつも下道で行ったものだ。愛岐道路-19号線-洗馬から広域農道、大町から148号線。早く着き過ぎると駐車場が未だ空いていないのでその時刻に合わせる為にも下道をチンタラと走って行くのだった。
今ではとても考えられない事をしていたものだ。というか長野自動車道が豊科まで開通したのが丁度その頃なので、当時としては下道が普通だったのだ。
それがいつしか高速道路を使うのが当たり前になり、毎シーズン5万円ハイカを買うのが恒例になっていた。
気が付けば走行距離13万km越え。後3年乗っていれば20万km近くなっていたかも知れない。
その前に乗っていたタウンエースの頃から、冬場はリヤシートをフラットにして布団が敷きっぱなし。
だんだん子供達が大きくなってきて4人並んで寝るのが難しくなってきた事もあり、屋根を上げ2階で寝れる車にしたのだった。
でも実際に屋根を上げて寝たのは数える程しかない。
そのころから子供達はスキーチームのバスで合宿に出かけるようになり、親は試合の応援に別行動で行くようになってしまった。
かみさんと2人だけなら寒い2階で寝る事もなくリヤでのびのびゆったりできた。
かみさんの言ったとおりもう1年遅かったらこんな車は買っていなかったかもしれない。
最後に一度、夏でもいいから一家で出かけてみようと思っていたがそれも出来なくなってしまった。
昨日帰宅途中、K駅でかみさんの迎えを待っていたがちっとも来ない。携帯電話も繋がらない。
雨もあがり空も晴れている。日の入りも遅くなり未だ残照で明るい。めっきり春めいてきており黄昏時のそぞろ歩きも捨てたもんじゃ無い。
暫く歩いているとお兄ちゃんが迎えに来た。
「おかあが事故った。すぐこの先にいる。」「怪我は?」「無いみたい。」
てっきり[コツン]程度かと思っていたら、相手の車は前がクチャクチャ。我が家のFriendee君は左前が結構へこんでいるが大破というほどには見えない。
僕が言うのも変ですが家のかみさんは運動神経は良い方。少なくとも僕よりはずっと良い。そして20年以上無事故無違反。当然ゴールドカード。世の一般的な奥様方のようなぎこちない走り方ではなく男っぽい走り方だ。
そのかみさんが事故るなんて。事故の誘因として別の車の存在が有ったらしいが、事故が起こってしまったのは事実。今までの自信が崩れその方がショックだったようだ。
警察の聴取の後双方レッカーで修理工場へ。保険会社の手配で代車も用意されているとの事。ショックの大きなかみさんは家に帰し、代りに僕がレッカー車に同乗し代車を借りに行く。
レッカーに引き上げたところで道路の濡れが気になり指で触ってみる。冷却水かと思っていたが油だ。割と透明なのでエンジンオイルではない。フロント側のデフオイルかミッションオイルだろう。
確か今回から保険も車両を抜いていた筈。全面的にかみさんの方に非があるようだし、修理費もかさみそうだし廃車した方が良さそうかな?とふと思う。
修理工場で翌日概算見積もりを電話で知らせてくれるとの事。金額によって修理するかどうか決める事にするが廃車の公算が大きい。かみさんは明日の土曜日は休めないと言っていたので僕が処理しなければならない。
廃車手続きをして代車を返すとなると帰りの足がいるがお兄ちゃんが付き合ってくれると言う。事故の後もすぐ駆けつけ気が動転しているかみさんに付き添ってくれていたし、こんな時に家族の絆を強く感じる。ほったらかしだったにも係らず、よく素直で優しい子に育ってくれたものだ。きっとかみさんの躾のおかげだろう。
丁度目薬も切れていたことだし、明日は眼科診察に行こう。Hikingは今週はPass。
翌日、修理工場から電話。外側(板金、バンパー、サスペンション等)だけで修理代が37万円。エンジン周りはまだだがざっと50万円は掛かりそうとの事。去年の今頃も車検以外に燃料ポンプのオーバーホールで20万円、冷却水パイプのパンクが相次ぎその度にLLC交換でいくらか掛かってしまった。
ここでまた50万円も掛ける意味があるだろうか?いや無い。
という事で即廃車決定。
手続きを済ませ、いざ最後のお別れにFriendee君と面会する。
まる8年も乗っているとやはり愛着が湧きお別れが寂しい。時には駄々をこねることもあったが、手をかけてやるとそれなりに応えてくれていた。
なんたってこの室内の広さ。屋根を上げた時の天井の高さと開放感。立って着替えが出来るこの広さ。リアの床に突起が無く2mのスキー板が何本でも放り込め、外に積載したときの汚れがなく金具の保守、滑走面の保守にも凄くメリットだった事、標準装備のロールカーテンの便利さ、それに以前のワゴン車に比べインタークーラー付きターボのトルクフルな走りの良さ。そして雪道をものともしないリアルタイム四駆とスタッドレスの安定感。ハブロックしなくても良いので停車したことも、チェーンを巻いた事も一度も無かった。
そうそう、運転席、助手席の背もたれを前に倒しセカンドシートのオットマンをひっくり返すと即後ろ向きシートの出来上がり。セカンドシートの背もたれを倒すとテーブルに早変わり。それを挟んでサードシートと前席とで親子4人がランチやディナーが楽しめたのも懐かしい思い出。
子供達を正月休みの合宿に送り出しておいて、かみさんと二人志賀高原で休み中、車中泊をした事もあったなあ。500円でホテルの温泉に入り湯たんぽにお湯をもらい、常設の羽毛布団にくるまってぬくぬくとできたよなあ。かみさんはホテル地下の乾燥室入口から入れば温泉代を払わなくてもみつかりっこ無いといっていたが、「某会社の**無銭入浴が見つかり解雇」なんて新聞記事になるといけないからとちゃんと代金を払って入浴したなあ。
あんなこと。こんなこと。いろんな事が有りました。その楽しい思い出を演出してくれたのが、我が家のFriendee君です。
こんなにあっけなくお別れする事になるなんて!
でも感傷にばかり浸っている訳にもいかない。廃車手続きの後、早速お兄ちゃんと次の車選び。辺鄙な所に住んでいるので足が無いとどうにもならない。おとうはHikingにも行けない。
感傷に浸っていた割りにドライなんだな。
燃費で選ぶならホンダフィット。四駆でも10モード20km/l 早速試乗してきました。
永年ディーゼル車に乗ってきて粉塵公害を撒き散らしてきたので世間様に凄く負い目を感じている。だからエコカーへの執着が強い。プリウスもいいが四駆が無い。エスティマハイブリッドは四駆だが10モード10km/lと燃費が悪い。なかなか購買欲を充たしてくれる仕様のものがない。唯一フィットだけだ。
かみさんは冗談か本気か四駆ならアウディ、2駆ならBMWとのたまわっておらせられる。どこにそんなお金があるというのだ。
フィットの見積もりを貰って帰ったら「こんな不細工で小さい車に200万円近くも払いたく無い。ダンプとぶつかっても死なない車が良い。」とほざきよった。
「そんなもん戦車しか無いぞ。」「ほんなら、戦車だ!」
並みの人では理解に苦しむ会話が今日も続く。
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