雪道


20060130

バリバリバリ…
いきなりの轟音に訳が解らず減速する。
隣でSさんが「チェーンが切れたな。」
停車しリアを見ると大事な新車のリアフェンダー辺りが傷まみれ。所々塗装が剥がれ、大きな所で直径5mm程鉄板が覗いている。
茫然自失、まさにこの時の私をさして言う言葉だろう。
「雪道は初めてだったのか? それならうちの車を出してやれば良かったなあ。悪い事をしたなあ。」
そう言ってくれるSさんの言葉が虚ろに耳を通り過ぎて行く。
おのれの無知や未熟さを思い知らされ、やり場の無い憤りを押し殺すのが精一杯だった。
既に道路には雪は無く融雪剤に濡れた路面が広がっていた。さすがにもう雪も無いだろうから、そこでチェーンを外した。
痛々しく傷ついたフェンダーが否応無く眼に入り、ただただ悲しかった。

もう遥か昔、Sさんに連れられ山をうろついていた頃の事である。
田立の帰り、多治見市内にさしかかったところでの出来事だったように思う。
中古のマークUから新車のカローラクーペに乗り換えたばかりの頃だった。街中では何度かチェーンを巻いた事はあった。このチェーンもマークUの頃から使っていたものだ。(昔はラダーチェーンしかなく、タイヤの径が小さくなってもチェーンを詰めて使うのが一般的だった。径が違いすぎる場合は横方向のチェーンを1本切り取れば使えます。)
その程度では、本格的な雪道は初めても同然だった。
前夜出発だったが出がけから雪が降っており、19号線は渋滞、賎母からの山道でも大雪に阻まれ、結局断念して引揚げてきた挙句の出来事だった。丁度夜が明け空が白み始めた時でありその時眼にしていた多治見の街とその向こうに見える山並み、そしてその上に広がる空の色が鮮明に記憶に残っている。

Sさん宅に帰着後、切れた横方向のチェーンを弓鋸で切りとってもらい、今後の応急処置用にと太目の針金をわけてもらう。ホースを借りてドロドロに汚れた愛車を洗わせてもらう。
あれこれ雪道での注意点を教えてもらう毎に、おのれの無知さ未熟さを今更ながら痛感する。
「○っちゃん、いつもダブルクラッチ踏んでるし、繋ぎかたも上手いから雪道も慣れてると思ってた。」 …雪のない市街地しか走ってないんだから買被り過ぎだって。

帰宅後、補修用ペイントで塗装の剥げを修正した。思ったより目立たないので少しは気が楽になった。でもこの傷を見るたび初めての雪道走行でのせつない思い出が蘇る事になった。

これを機に私の雪道走行は極あたりまえの事となり何処でも平気で出かけるようになった。
根がグータラなのでチェーンも出来る事なら巻かずに済ませたい。そのため何度回りの車に迷惑をかけた事やら。(山行で男どもと行く場合は登らなくなってもトランクを開けリヤバンパーに2人ほどが乗っかり揺すって貰うとトラクションがかかり結構走破性が上がります。)
慣れるほどにチェーンを巻くタイミングも要領を得てきます。
FRにラダーチェーン。これが昔の一般的スタイルです。今の若い人達、いきなり高性能の4WDに乗られたりしているようですが、滑る感覚が身に付かず、滑り具合の見極めも付かないのではないか?と思ってしまいます。低速でも直ぐ滑るFRとラダーチェーンの組み合わせって、雪道走行の基礎練習にぴったりだと思うのは私だけでしょうか。
そうスキーのボーゲンのようなものとでも言えばよいのかな。ボーゲンが出来ない人にいきなりパラレルだ、ステップだ、って言ったって板に乗れなきゃ意味が無いと思うのですが。
きついサイドカーブのおかげで見た目カービングでもエッジに乗る感覚が解らない人には本当のカービングなんて無理無理。
同様に滑る感覚と見極めが出来ていない人がいきなり4WDに乗っても、グリップが保てる状態ではOn the Railで行けますが、度を越して滑ってしまったらどうしようもありません。限界が高いだけに滑り出しもFRよりずっと高速です。まるで未熟な運転者に高いハードルを用意しているように見えます。

雪道走行は慣れれば楽しいものです。当然リスクも伴っていますが考えられるリスクを想定しながら走るのはもっと楽しいものです。車にも思いやりを持って、過度な負担を避けるように乗る。乗馬で言うところの【人馬一体】とでも言えば良いのかな。
何も知らず、何も考えずに走っているのが最もリスキーだと思います。例え高性能の4WDでも自然がもたらすさまざまな条件の下では全く無力となる事が多々あります。


2006年01月30日


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