霧中雪行


再び谷に戻ると二股に分かれています。トレースは左側に。
「右側はヤグラ沢かな?」ちょっと早すぎるような気もしますが・・・。
詰めて行くとまた二股。
「あっ、こっちがヤグラ沢だ。」ガスで周りがよく見えません。
こりゃ遭難予備軍ですな。



20230212

6:05 a.m. 中道駐車場着。
今日はいやに早く着きました。家で朝のお勤めを済ませてきた所為ですかねえ。
車の中で仕度を済ませます。今日はスパッツも助手席に放り込んでおいたので外に出なくても着けられました。
暑くなってきたのでエンジンを切り暖房も切ります。そして暇に任せスマホでポイ活。
そろそろかな?と小屋まで降りて行きます。小屋に入ると薪ストーブがフル稼働。暑いので上着を脱ぐ羽目に。

7:00 a.m. でっぱつ。
だいぶ明るくなりましたが、相変わらず霧雨が漂っています。
今日は藤内沢だとか。藤内周辺には立ち入らない事にしていたのですが、この年になって昔の知り合いに会う事も無いでしょうから、まっいいか。
それに一時暫くの間、前尾根で遊んで居た事もあります。もうかれこれ15年ほど経つんですねえ。まああの時に禁を犯している訳ですから今更どうって事ありませんね。
中道から行きます。途中の裏道へのバイパス路から裏道へと言う事です。そのバイパス路、結構深いトレースが出来ています。暫く行くと物々しいガチャガチャをぶら下げた人達が追い付いて来ました。「如何にも。」という出で立ちです。今の人達は中道駐車場からこのルートで藤内へ入っているようです。かもしか大橋上のゲートからスカイラインを歩いた方が楽な気がしますがねえ。だってここ、中道途中の分岐までかなり登る事になりますから。
私の現役時代は鳥居道キャンプ場のすぐ上に踏切の遮断機のようなゲートがあり、2人以上で来ればひとりがその遮断器を持ち上げ、その隙に車を通していました。尤も当時はワゴン車に乗っている者なんて殆ど居なくてセダンばかりでしたからこんな芸当が出来たのですね。この遮断機さえ通り抜けれれば後は蒼滝橋付近の駐車スペースに停めれます。冬場こんな所に来る連中なんて少なかったですから。
そんな昔話をしながら歩いているといつの間にか裏道に合流し藤内小屋までもあっという間。

藤内小屋の前で小休止。今日は暑いです。曇天で霧雨も流れていますが気温自体が高くまるで春。ここまでで既に大汗をかき霧雨で濡れたと言うより汗で濡れたと言う方が当たっています。
汗を拭っても拭ってもきりがありません。眼鏡もいくら拭いてもすぐ曇ります。まるでめくら運転ですが、こういうのって結構慣れているんですね。スキーだって雪面なんて見てないですしね。
じっとしていると寒くなってきました。歩けば暑いし止まれば寒い。どうせいっちゅうんじゃ〜!
てな訳でまた歩き始めます。歩きながら考えるのは昔のこの辺りの地形。2008年の豪雨禍以降も何度も通っているのですがやはり強く記憶に刻まれているのはそれ以前の地形です。記憶にある地形と現実の地形との齟齬に暫し頭が混乱。これってやはり認知症?
昔、藤内小屋の裏から樹林帯に入り暫く進むと左手に小さな登り口がありました。そこを登って行くと【天狗の踊り場】と呼ばれる所に出ました。
中道キレットからの押出しが形造ったようで、巨岩が累々と折り重なってる様は如何にも天狗が居そうな雰囲気でした。そのいくつかの巨岩に遭難碑として金属プレートが貼付けられていました。それらを見るたびに知らず知らずのうちに思い上がっている自分へのタガとしていたように思います。
水害で景色が一変したすぐ後、ここを通った事があります。その時に目にしたもの、【天狗の踊り場】に在ったであろう遭難プレートが北谷本流から流されてきた土砂に埋もれながらも顔を覗かせていたのでした。それを見つけた時の私の気持ちは筆舌に尽くし難いものでした。人の儚さは自覚していますが、こんな遭難プレートまでもが・・・。鎮魂の証がまた災いに逢うとは。

そんな事を思い出しながら歩いていると昔懐かしい岩塔が。

【兎の耳】と呼ばれていますが私たちは【ピョンの耳】と呼んでいました。通ぶってわざとこんな呼び方をしていたんですね。
右岸側に木立に囲まれたちょっとした広場があり【ピョンの耳の天場】と呼んでいましたが、今ではだだっ広い川原が広がっているだけです。選り取り見取りでテントが張れます。そして北谷の流れを渡る為の橋もありましたが今は飛び石伝いで渡るようになっています。
左岸側に渡り少し登ると国見尾根からの水場があります。御在所側の水はロープウェイ敷設後は皆飲用不適なのでここが最後の水場となります。現役の頃はいつもここで水を補給してから藤内へ入っていたものです。
暫く行くと藤内沢出合。現役の頃に新設された大看板が今でも立っています。曰く「藤内壁出合 ロッククライマー以外は立ち入らないでください。」
また笑ってしまいました。藤内出合じゃなくて藤内出合だろ!
そして、「我々は岩登りしに行かないから立ち入っちゃダメなんじゃない?」おまけに、皆さんメット被ってますが私ゃニット帽しか被っていません。

先行御一行様がここで身支度をしています。我々もアイゼンを着けます。ツルハシもザックから外し、いつでも出せるように背中に通しておきます。
皆さんの身支度を待っている間に燃料補給。藤内沢はガスで霞んでいます。


8:40 a.m. 藤内沢へ。
下のテストストーンってまだ在ったんですね。その下を右岸側に移り先行パーティをパス。すぐ上に出て前尾根下のテストストーンへ。
まずは左端の簡単ルートから。思った通りスタンスにはツァッケでほじられた1cmほどの穴が。そこにツァッケを入れれば絶対に滑りません。
2本目は右側。ベルグラが張り付きスタンスが解りません。ツルハシを出しピックで氷を割ります。「あっ、あったあった。」
届く所のスタンスは出しましたが登って行くと上の方はベルグラがベットリ。「しまった、ツルハシ背中に刺したまんまだ。」
なんとか試みますが防寒テムレスのよく滑る事。ホールドがありません。そうこうしている内に微妙にかかっていたツァッケがスタンスから外れ下まで滑り落ちます。「こんなまん丸のツァッケじゃあ凍ってたら効かんわなあ。」なんと曲率半径が3-4mmあります。
ふり向くとギャラリーが「ナイスファイト!」しまった観られてたんかい。
同行の皆さんは既に居なくなっています。「いかんいかん迷子になっちゃう。」と後を追います。
藤内滝を巻き、その上の凹角を攀じ藤内沢に降り立ちます。丁度前尾根フランケの真下。

足元には落ちて来たであろう大きな氷塊がゴロゴロ。こんな所早く通過しようと気が焦ります。
急な雪面を登り詰めるとコーモリ滝。いや本当にコーモリ滝なのかどうか記憶が定かではありません。

あまり氷が着いていないのでカッティングも必要なし。
その後はIさん達は右岸側を巻きます。T尾さんが沢を直登して行くので付いて行きますが氷瀑に阻まれます。氷を叩くとバコバコ言ってます。薄い証拠です。T尾さんが登れても私ゃこんなアイゼンではきっと登れないでしょう。先程のテストストーンがそれを証明しています。
と言う訳で戻る事を促し巻く事に。Iさん達に合流します。
再び谷に戻ると二股に分かれています。トレースは左側に。「右側はヤグラ沢かな?」ちょっと早すぎるような気もしますが・・・。
詰めて行くとまた二股。「あっ、こっちがヤグラ沢だ。」ガスで周りがよく見えません。こりゃ遭難予備軍ですな。
15年ほど前にIさん達と前尾根に行っていた頃、ヤグラ沢から藤内沢を降りた事はありますが、3ルンゼへ登った事はありません。てことは現役時代からずっとご無沙汰ですから40年以上来ていないって事です。現役の頃はヤグラ沢から3ルンゼ、山頂の【喫茶ひめつつじ】ってよく行ってたんですがね〜。そう雪の頃は冷たさに耐えかねて相棒とよく暖を取りに行ってたのです。
3ルンゼすぐ下は一ヵ所チムニーのように狭くなった所がありそこを潜って出たのですが、気付かない内に過ぎていました。無くなっちゃったのか雪に埋もれているのか?
一歩一歩進んでいる内に目の前に大きな岩塔。ああこれはノコギリ岩。て事は3ルンゼドンツキ。
いきなり「氷が落ちて来るかもしれないので左側へまわってください。」
数人が氷に張付いています。どうやら講習会のようです。中にはカワユイお姉ちゃんもいます。「お仲間に入りたいな。」なんて思うのは70過ぎのエロジジイ丸出し。

Iさん達はここから直登して遊歩道に出るのが楽しみなのだそうです。夏場はブッシュだらけですがこの季節は全て雪の下。踏み抜かなければ快適に登れます。


10:10 a.m. 山頂遊歩道に飛び出します。
一路自然学校前へ。そり広場は家族連れで大賑わい。子供達の歓声が心を和ませてくれます。
自然学校前のベンチで大休止。こんなにガスっていても気温は高く温かいです。時折薄日が射すと尚も暖かくなります。

藤内沢は雪が軟らかく滑り降りるには少々難あり。おまけにあちこち穴が開き流れが出ていたし。落ち込んだりしたら出て来れません。
と言う訳で降りは中道。その方が遠回りしなくても良いですし。それならアイゼン外しちゃいましょ。ツルハシも背中に通して。

10:40 a.m. でっぱつ。
相変わらずガスが漂っています。富士見岩も展望なし。


11:00 a.m. 北谷テラス。
皆さんここで一息入れついでにアイゼンも外します。空も明るくなってきたかな?

降っている途中ですれ違った人にまたツルハシを見られてしまいました。今時ウッドシャフトなんて前世紀の遺物なんですかね〜。
面倒臭いので「新調するお金が無いんです。」と言っておきました。
キレット辺りではかなり明るくなりました。雲が薄く一部青空も。当然気温もかなり上がり暑い暑いと言いながら。

相変わらず下界は望めませんがガスも切れお地蔵さんもくっきり。


12:20 a.m. 駐車場着。

やっと青空が望めます。御在所の山肌にガスが纏わり付き幽玄な面持ちです。御在所の神様、今日も一日有難うございました。

さすがに今日は天気が悪かったのでロープウェイも混んでいないでしょう。ならかもしか大橋へまわっても大丈夫?
正解でした渋滞も無くスイスイと渡り希望荘へ。さあ今日もひと風呂浴びてから帰る事としましょう。


2023年02月13日11時50分00秒 記



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